2013年3月21日木曜日

【映画】「殺しの分け前 ポイント・ブランク」

ず~~~っと前にブログのサブタイトル(というんでしょうか、あれ)の由来?について触れた?ので、今回メインタイトルについて触れようと思います。




というか誰も聞いてくれないので自ら説明します。



「どうせウッシのことだから、60年代の米ハードボイルド映画の題名とか、ブラックパンサーの集会のポスターに書いてあった言葉からとって、適当に二つつなげたんだろォ」


・・・・・はい。そうです。でも一応説明します。


というわけで、好きで好きでたまらないこの映画を今回は皆さんに紹介したいと思います。


「殺しの分け前 ポイント・ブランク(原題”POINT BLANK”)」1967年 監督 ジョン・ブアマン








面倒くさがり屋のわたしですが今回はちゃんとあらすじを紹介いたします。


主人公のウォーカー(リー・マーヴィン)は、刑務所の独房で目覚める。そこは今は廃墟となった孤島のアルカトラズ刑務所であった。ウォーカーは銃で撃たれていた。ここに至るまでの経緯をウォーカーは回想する。

ウォーカーは妻のリン、学生時代からの友人マルと、3人でひとつの友情とも愛情ともつかぬ奇妙な関係を築きあげていた。ある日、ウォーカーはマルからある計画を持ちかけられる。それは、アルカトラズ廃刑務所で夜ごと行われている犯罪組織の闇取引に乗じて、彼らの現金を強奪する計画であった。マルはある組織に多額の借金を抱えており、それを返済するにはこの計画を実行するしかなかったのである。

ウォーカーとマル、そしてリンは闇夜のアルカトラズ刑務所で待ち伏せし、現金の強奪に成功するが、その額が予想より少なく、ウォーカーと分けると組織への借金の返済に足りないことが判明すると、マルはウォーカーを撃ち、兼ねてより密かに情を通じていたリンとともにアルカトラズを去った。

しかし、ウォーカーは死んでいなかった。自力でアルカトラズを脱け出すと、マルについての情報を提供してくる謎の男の助言と、リンの姉クリス(アンジー・ディッキンソン)の協力を得、自分を裏切ったリン、マル、そしてマルの組織にひとり立ち向かっていく。合言葉はひとつ。「俺の9万ドルを返せ。」




まず。



「こんな映画、もう200本くらい観てるよ!!!!!!」


と、いう人いっぱいいるかもしれません。ちょっと、ちょっと待ってくれ!

こうしてあらすじを紹介すると、たしかにただのハードボイルド・アクションって感じがするかもしれませんが、この映画はただのアクション映画じゃない。この映画は、どの映画にも似ていない。この映画を観た後の「今、俺は何を観ていたんだ?」という感覚は唯一無二である。


じゃあなにが違うんだ、て話ですが、正直観てもらうしかないと思うんですが、がんばって説明します。



とにかく不思議な映画なのです。アクション映画を期待してこの映画を観ると、常に奇妙な違和感が観る者につきまとう。たとえば冒頭のアルカトラズのシーン。負傷したウォーカーはどうやってアルカトラズから脱出するのか?彼が海の中に入っていくシーンが出てくる(アルカトラズは潮流により絶対に泳いで脱出はできないといわれる)。と思ったら次の瞬間、彼はスーツを着てアルカトラズ巡りの観光船に乗っている。説明はなにもない。

観光船で出会った謎の男に現在のリンの居所を聞いたウォーカー。彼が、地下道みたいなところを無表情でただひたすらまっすぐ歩く映像に、ウォーカーが生きていることなぞつゆ知らず、有閑マダムな日常を送るリンの姿(しかその表情はどこか物憂げである)がカットインする。カツカツと、機械的なウォーカーの靴音だけがそのシーンの音である。そして音量を増していき、ほとんどハンマーでなんかぶったたいているような轟音となった靴音から突然、静寂、スローモーションでウォーカーが帰宅したリンが家に入ろうとするのに乗じて家に侵入し、リンを突き飛ばし、寝室のマルがいるであろうベッドめがけて弾装がカラになるまで銃をぶっ放すシーンにつながる!

うん、ここは普通にメチャクチャかっこいいシーンだった。男の中の男、リー・マーヴィン。

しかしマルはいなかった。リンは淡々と、マルが自分から去って行ったことをウォーカーに告げる。ウォーカーはまだマルが帰ってくるのではと一晩リンの家に居たが、翌朝、リンは寝室で薬物を飲み自殺していた。ウォーカーがいったん部屋を出て、また寝室に戻ると死体があるはずのベッドはもぬけの殻、代わりに猫が鳴いている。説明はなにもない。


このあたりで観る者は、自分が観ている映画が単なるアクション映画なのか、それとも奇妙なアート映画なのか、またはそのどちらでもないのかよく分らなくなってくる。

全体的に夢の中にいるようなシーンが続く。僕がとりわけ好きなのは、リンの姉クリスが経営するナイトクラブ「MOVIE HOUSE」にウォーカーが行くシーン。黒人バンドが登場し、非常に珍奇なR&Bを演奏する。まあ、同時期のJBのファンキーR&B~ファンキーソウルのバッタモンなんだけど、JBの過剰な部分だけを取り込んで、曲のグルーヴ感とか一切ない奇怪な音楽になっている。なんせシンガーは「オーライ」と「イエー」しか言ってない。でもJBだってだいたいそんなもんだろ?とか言ってんじゃねえ!!!!

このシンガー、動きもJBばりのダンスを見せてくれるが、とにかくイェーとオーライしか言わないので実にうっとおしい。やがて客のおっさんにしつこくマイクを向け出し「イェー」を強要しはじめる。何回も。居心地悪いったらない。もうやめろ、といいたくなる。






この居心地の悪さはある映画のあるシーンを思い出す。スゥインギングロンドンを舞台にしたアントニオーニ「欲望」の、ヤードバーズがクラブで演奏するシーンだ。ヤードバーズ(ジェフ・ベックとジミー・ペイジが同時に在籍する時期!)がステージで白熱の「STROLL ON」を演奏するが、観客はみなボーっと無表情でステージを見つめているだけ。微動だにしない。

どちらの映画のどちらのシーンも、ナイトクラブのもつある種の非現実性や、悪夢的な感覚を映像に焼き付けたすばらしい例だと思います。

冒頭のクレジットだとこのシンガーはSTU GARDNERとのことだが、REVUEレーベルとかに録音を残している同名のシンガーと同一人物なのだろうか?でも声とかぜんぜん違うし、この曲自体、黒人が作った曲じゃなくて白人(しかも普段はぜんぜん違う音楽やってる人)がJBとかを聴いて「まあ大体こういう方向だろ」ってデッチあげて作った曲て感じがする。

とりあえずDJでは使えそうにない。残念。

あとウレシイのが登場人物の60sファッション。ウォーカーのスーツスタイルは洋書のIVY研究本でも取り上げられていました。アンジー・ディッキンソンのワンピースも可愛いながらセクシーで良い!!



そういう感じで淡々と映画は進んでいく。ドラマティックな部分はそんなになく、ウォーカーがゆくところに淡々と死体の数が増えていく。

そしてウォーカーはついに組織の大ボスを追い詰めるが、そこで物語はあっけなく終わる。実はウォーカーに近づいた謎の男は組織のナンバーツーの男の仲間であり、ウォーカーにボスを殺させて組織を乗っ取る計画だったのだ。

ナンバーツーはアルカトラズに追い詰めた大ボスを射殺し、ウォーカーに今までのことを教え、金をとりに来い、と告げるが、遠くから物陰にかくれていたウォーカーはその様子を見守った後、暗闇の中に消えてしまう。

彼は二度と現れない。

組織をのっとったナンバーツーは、首をかしげ、変だなあとアルカトラズを後にする。

映画はそこで終わる。

話自体はまあよくある話だし、全体を覆う奇妙な空気も、67年という時代を考えれば、台等しはじめたカウンターカルチャーやアメリカンニューシネマの雰囲気だなで済みそうなものである。

しかし、あるひとつの事実に気づいたとき、観客は戦慄する。



<以下、ネタバレがありますので未見で観たいという方は読まないほうがいいかもしれません>




























カンのいい方なら観ててすぐに分かるかもしれませんが(僕は終わった後やっとわかった)、この映画にはずっと奇妙な点がひとつあります。

それは劇中何人も人が死んでいるのに、復讐の主人公のウォーカーは実はそのうちのひとりも直接手を下したり、または傷つけていないということである。


①裏切った妻リンは、ウォーカーに一方的にマルとのことなどをしゃべった後(実はこの間中ウォーカーは黙ったままである)、薬物を飲んで自殺する。

②マルは自分のペントハウスに侵入したウォーカーともみ合った後、足をあやまってベランダから落ちて死ぬ。

③マルのペントハウスを護衛していたマルの手下はウォーカーを見つけ発砲するが、ウォーカーは物陰に隠れてうまくそれをやり過ごし、銃声を聞きつけた警察がその手下を撃つ。

④マルの組織のボスはおとりを使い、ウォーカーに金を渡す算段でおびき寄せ、狙撃主にウォーカーを射殺させようとるるが、勘付いたウォーカーはそのボスを拉致し金を渡す場所まで連れて行き、おとりもろともそのボスを狙撃主に射殺させる。

⑤ついに追い詰めた大ボスは、ウォーカーに密かに近づいていた組織のナンバーツーの男に射殺される。



これらの事実から、この映画の内容の解釈としてポピュラーになっているのが、この物語の主人公ウォーカーは実は死人だということである。


つまりウォーカーは最初のアルカトラズのシーンでマルに撃たれて死んでおり、その後の物語は、すべて死んだ男の亡霊の物語だということだ。


確かにそう考えればつじつまが合う部分はいくつもある。リンもマルも、亡霊にさいなまれて自殺したと取れなくもないし、警戒していたマルは自分のペントハウスに護衛を何人もつけていたのに、ウォーカーはほとんどまぐれ(アンジー・ディッキンソンの協力もあったけど)でその護衛を突破し、マルを追い詰める。僕なんかここらへんのくだりは「やっぱり昔の映画だな」と苦笑してしまったのだが、彼が亡霊であるとすればそれもなんだか納得できる。

主人公が実は死人だったというオチは、「シックスセンス」がパクったとよく言われる「恐怖の足跡(原題:THE CARNIVAL OF SOUL)」という1962年の映画ですでにやっているのでこの映画が最初ではないが、アクション映画でそういうことをやるってのが凄い、というか意味が分からないし、はっきりそういうオチであると解るわけでもないので、なんだかもやもやしたものが残る。

また、現在この映画についてまたよく言われるのが、この映画は友や妻に裏切られ死に行く男がいまわの際に見た一瞬の夢なのではないかという解釈。

まあ夢オチと言ってしまえばそうなるが、この全体を覆う虚無感、夢を見ているような感じは、そういう解釈がふさわしい気もする。

監督のジョン・ブアマンはこの後も都会の人間がド田舎でホワイトトラッシュに執拗に付け狙われる奇妙なサスペンス映画「脱出」など、変な映画ばかり撮っている天才である。

「ポイント・ブランク」の原作はリチャード・スタークのハードボイルド小説「悪党パーカー」であるが、ジョン・ブアマンはその内容が気に入らず、勝手に自分流の全く新しい映画にしてしまった。
こんな映画をハリウッドのメジャーが作っていたのだから、つくづく凄い時代だったんだなと思う。




ちょっと前までは、日本ではずっと前に出たビデオでしか見ることができず、僕も最初は輸入版のDVDを取り寄せて見ていたのだが、おととしくらいにツタヤの「発掘良品」にてレンタルリリースされたので、今ではどこででも簡単に見ることができるようになっています。


はっきりいって万人におすすめできる映画ではないけど、興味をもたれた方は是非観てみてください。


疲れた














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